「あなたはかの少女にこの世界からいなくなることを望んでいる。
ですからわれわれはお手伝い差し上げると、あなたに申し上げた。その相談にあなたはこちらへいらした――」
「しかし私は断ったはず。あなた方のようなやり方は私は望んではいない!」
「やり方など……結果いなくなるのですよ?よいではありませんか」
そういって鎌を持ち出す。
その姿、まさしく死神。
しかし成政は動じずにいらえる。
「あなた方のやり方は確かにかえでさんをこの世界から消す。
だが命をとってほしいとは私は言っていない。
あなた方の方法がかえでさんの傷付けない方法ならあるいはと思いましたが、私の考えが浅はかだった。
ですからお引き取りください」
私、殺されるの??
成政に目で問うて見るが、成政はしっかりと影を見たままこちらを向かない。
「いいえ……あなたは織田信長の大事な家臣……帰せるわけないでしょう、佐々殿」
鎌が構えられる。
成政が影をにらみつけた。
「こんな好機ありませんよ……死んでいただきます」
「……かえでさん、逃げてください……」
成政が、ぼそりとつぶやく。
かえでは成政の袖を引っ張った。
「だったら成政さんも」
「二人では逃げ切れません。わかりませんか?
この霧、術によるものですよ?私が隙を作ります。かえでさんは逃げてください」
「そこにまとめてお二人たっていてくださいね。苦しめずに死んでいただきますから」
影が言う。
すると成政はかえでをぽんと後ろへ押し出した。
「わ……」
「逃げなさい!!」
成政の声がする。
かえでは立ち上がって成政を引っ張ろうと顔を上げた。
影が、成政に迫っていた。
成政の手が腰の刀にかかる。
「いやっ!!」
かえでの声に成政がびくりと震える。
そして刀にかかっていた手を、刀から離して影を見据えた。
ぐさっっ……
白い霧の中で、やたらと赤い赤が成政の体からふきだした。
倒れる成政。
左肩をやられていた。
かえでは成政に駆け寄り、起き上がろうとする成政の身体を支えた。
「どうして……どうして刀をぬかなかったんですか?!今、抜けたじゃないですか!」
「逃げなさい!!……いいから……逃げてください……私は……あなたの前で……刀は震えない……」
「おや、おかしな事です。武士たるあなたが、刀をおなごの前で抜けないとは……」
影が血のついた釜をもう一度振りかざす。
かえでは成政の腰から鞘ごと刀をとり、影にどついた。
「っっ!!」
「私だって、利家くんに武術習ってるんだもん!!たたかえるわ!」
「だめです……だめです……だめですかえでさん!!もうこれ以上……」
「成政さんが戦うんだったら私も……??」
影が、くの字に曲がる。
成政が、刀を振るっていた。
大小のひとつを手に、影の腹を切っていた。
どさりと倒れる影。
成政は肩で息をしながらそのまま切った構えでたっている。
「成政さ……」
「なぜ……なぜ引かなかったんですか……かえでさん……」
成政の手から刀がこぼれる。
鈍い音を立てて地面に吸い込まれた。
「なぜ……私の言う事を聞かなかったんですか……」
「……だって……」
「なぜ私が……あなたを帰したいかわかりますか?」
「……」
「なぜ私が……刀をふるえないか、わかりますか??」
成政の瞳がかえでを突き刺す。
かえではその場に立ち尽くした。
「わからないのでしたら、どうかそのようなお振る舞い、おやめください」