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「あ……」

利家の屋敷の門を出ると、そこに蘭丸がたっていた。
がしかし、かえでの中で気を許してはならないという気がめぐる。
いつものように蘭丸がにこりと笑ってこ地らへよってこないのが、無意識のうちに何か異常なように感じるようになっている。

「かえでさん」

「なに?」

短く返事だけをする。
蘭丸もそれ以上はすぐには語ろうとはしない。
かえでが萎縮していると、蘭丸はようやく口を開いた。

「上様が、お呼びです」

信長……かえではさっきの剣幕の信長を思い出した。
あれだけ怒鳴って、その原因を作ったのが私で……今あって大丈夫なのだろうか。
殺されるかもしれない……かえでは瞬時にそう思った。
一緒に天の川を見た、あの信長。
だが今彼とは成政の一件で違ったまま。
でも行かなければ仕方がない。
ここで断って、一体かえではどうなる?
この織田を追われて、一体どこへ行く??
現代へ返れるの??

考えても答えはまとまらない。
とにかく、妙に礼儀正しい蘭丸の後についていくことにした。



呼び出されたのになかなか当の信長は出てこない。
いったい何の用事があってかえでを呼び出したのだろう。
また何か悪いことをしたのだろうか。

いま、かえではいろんな事がありすぎていっぱいいっぱいだった。
成政もなぜかえでを返したいと思っていたのか、それは彼の心に深く残る出来事のせいでもあったし、
それが軽視できるようなものでもないことがわかった。
信長に対して怒らせてしまったのも、どこか油断していたからかもしれない。
自分がここにいるみんなを「知っている人」と思っていたから。
でも実際は、やったことは知っていてもその人の人となりはまったく知らなかった。
どんな人生を歩んだかわかってても、性格までは知らないし、ましては話したことも当然なかった。

そう、かえでは自分が何も知らないことに気づいたのだ。
するとと単に自分が何でここにいるのかわからなくなる。
きてしまったのはしかたがない。
帰り方もわからないからいるのも、何とかわかるけど、
ひょっとしたらここの人たちはかえでが未来を知っていることに期待してここにいさせてくれているのかもしれない。
そしたら、私はそれに答えられない。
かえでが知っているのは彼らのやった戦争や、最期の迎え方とか、そんなことばっかりだ。
どんな人間で、どんな生き方を好んだかなんて、まったく知らない。
だから未来を知ってるなんて、軽口はたたけない。

「かえでさん」

蘭丸が口を開く。
いたたまれなくなっていた感情を無理に引き込ませて、かえでは顔を上げた。
すると蘭丸が笑って言う。

「それでは、上様をおよびいたしますね」

「え?」

てっきり信長を呼んできていたのかと思った。
この様子だとまだだったようだ。

「先に言っておきますけど、上様はお怒りではありませんよ。
 あ……お怒りではないというと嘘になるかな……でも、今回はとにかく、そのことじゃありませんから、そんなに考えなくていいですよ」

そんなことを言われても何の救いにもならない。
かえではとにかくにこりと笑った蘭丸を送り出して、一人そこに座っていた。

しばらくしてふすまが開いた。ようやく本人がやってきた。