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「……」

成政のきっぱりとした物言いに、かえでは何も答えられない。
成政の言葉が、なぜか深く突き刺さる。
成政には何か引っかかっている事があるんだ。
それはかえでにもわかったものの、それがなんなのか、そこまで推し量る事ができない。

左の肩を怪我した成政は、その肩をかばうように右の手で落ちた刀を拾うと、血糊をふき取って刀を納めた。
その所作がいやにいたについていて、成政をじっと見てしまう。

「……何か?」

成政がそんな聞き方をするのが不思議でならない。
いつも微笑みながら話しかけてくれる成政が、笑わずにこちらにたずねている。
答えに困っていると、察したのか成政が口を開いた。

「あなたは又左に武術を習っているから戦えると、そういいました。でも、人を斬った事がありますか?」

「……ないです」

「そうでしょうね。あなたの話を聞いていると、あなたが元住んでいた時代は泰平の世のようでした。
 人が目の前で死ぬ事、まして自分の手にかかって死ぬ事もなかったでしょう」

成政が言うとおりだ。
人が死ぬなんて事、かえでには経験のないことだ。
親戚が病気で亡くなったことはあったがそれもその瞬間を見たわけでもない。

「女性は武器を持つべきではありません。特にあなたのような、心根の優しい方は……
 刀を持つという事は敵を持つという事。敵を持つという事はその身を自分で守らねばならぬという事。
 だがあなたのような方は、自分の身はさておき他人を守ろうとしてしまう。この乱世で、そのような考えで生きていけますか?」

成政の言葉が強く、力を持っているのがわかる。
かえでは答えを探せない。
成政が言っている事が間違いではなく、むしろ今までの自分そのままだった。
武術を習いたいと思ったのも、利家が襲われたあの一件があったから。
自分の身を守りたいのもあったが、出会った人たちをなくしたくないという気持ちのほうが大きかった。

「私はそうして命を落とした方を知っている……だからあなたにはその二の舞をしてほしくないのです」

「でも……」

「そうです。あなたは反対するはずです。私なら大丈夫と。そういうのでしょう?」

図星だ。
どこまでかえでの事を成政は読んでいるのだろう。

「だから帰ってほしいのです。あなたはきっと考え方を変えない。ならばこの乱世では生き残れない。
 あなたはきっとこの事実を知らないでしょう。掠奪ですら正当化されるこの世を。
 もしあなたがわかりましたといい、考え方を改めても、あなたの心は傷付く。自らの刀であなたは自分の心を切る。それは何よりも苦しい事です」

かえでの手から刀を取る。
そうして成政はそれを自分の腰へ戻した。
成政の肩が、黒く濡れている。
重たそうにたれる袖口から出る腕には、赤い血がついている。
なんともないように左の腕も扱っているがやはりどこかかばっていて、痛々しく見えた。

「成政さん……成政さんが私の前で刀をふるえないって言うのは……私が」

「ええ……あなたには武器の一面しか見えていませんから。私が刀をふるう事でそれを助長させてはならない」

そういってから、初めて成政は微笑んでかえでを見た。

「すみませんね。でも、あなたがいけないのではありません。あなたは間違ってはいない。でも、今のままでは、あなたが生き残れそうにはありませんから……」

「私は……成政さんがいうとおりでした。出会った人たちをなくしたくなくて、守りたくて武術を習いたいと信長様にも言いました。
 成政さんがそんな私を帰したいって思うのもわかります。でも……」

成政の微笑が消える。
かえではそれでもやめなかった。

「聞き分けのない人と思ってくれてかまいません!でも私、私は未来を知ってる。私がここにきたことで、もう歴史は変わってしまってる。
 狙われなくていい人が、狙われるんです。この織田家に未来を知っている人間がいると知ったら、それこそ私の知る歴史より激しく、厳しく織田家は窮地に陥るんです。
 私が来たことなんて、小さなことでたいしたことないと思ってたけど、利家くんが襲われてわかったんです」

成政が再び話を続ける。

「そのとおりです。織田家にも、あなたがいることは百害あって一利なし。あなたは未来を語ることが許されないようですから。
 それでいて狙われるんです。理不尽な事この上ありません」

「だから!!だから私は武術を習ったんです。みんなを守りたかったから。……そんなたいそれたことはできないから、みんなに迷惑かけないようになりたいから。
 自分の身が守れれば、きっとみんなが心配して、危険な目に遭うことはないから。だから……」

「かえでさん」

成政が微笑む。
言うのでいっぱいになっていたかえではその成政の顔をまともに見つめてしまった。

「わかりました。あなたの気持ちはわかりました。だから、泣かないでください……」

言われてはっと気づく。
涙がぽろぽろとあふれていた。

「すみませんね。あなたを泣かせるつもりはなかったんです。だけど、あなたが……あなたがあまりにも似ているから……」

「え……?」

「いえ、何でもありません。さぁ、戻りましょう。……ふふ、きっと私は御屋形様に怒られてしまいますね……」

成政が笑う。
かえでは成政の傷が気になった。
だが今はどうしようもない。
成政が言うままに、かえでは歩き始めた。