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「なるほどな……観音寺山か……」

「私の調べでは、そこまでしか辿ることができませんでした」

「蘭!サルに言え」

信長が言う。
脇におとなしく控えていた蘭丸が、ひとつ礼をして瞬く間に引き返した。
目の前で報告した男はまだかしづいている。
信長は短く「あげよ」とだけいい、彼の頭を上げさせた。

「十分だ。光秀。お前は策に向いておるな。手柄だ」

「勿体のうございます」

光秀はそういってまた頭を下げた。
信長はすっと立ち上がり、光秀にも立たせ、部屋を出て行った。

「行くぞ。観音寺山」



山は深い。
小さな山とはいえ、やはり安土の山よりも大きく、そして整備されていない、しかも夜となると状況は変わる。
利家は槍を番え、かえでと観音寺山へ入っていた。

「霧が……出てきたな」

利家が短く声を切る。
低い気温に湿っぽさも混じり、不気味さがいっそう広がる。
かえでは正直早く見つけ出して帰りたかった。
だから成政を呼びたかったが、それは利家に止められた。
伊賀といえば織田の敵。
最初にかえでの前に現れた影も、伊賀のものだった。
声を出せばこちらの場所がばれる。
ことにこういった霧の中では、向こうが有利かもしれない状況も考えろと、利家に口うるさく言われた。
普段はそんなこといわない利家だが、やはり成政との約束があるからだろう、かえでにえらい気を使っている。

そうなると使うべきは己の目しかない。
その視界さえ、霧でうまくない状況になってきた。
成政を探すのは、とても難しく思えてきたのだ。

どうしよう。
成政さんが、もし危ない目に遭っていたら。
この霧の中、危ない目に遭って逃げ道を失っていたら。
かえでの事を一番理解してくれていた成政。
かえでを元の世界へ返したいというのは、きっと何か理由がある、そうかえでは思った。
あの寺で話をしたとき、成政はじっとかえでの話を聞いてくれた。
もうかえでが帰りたいと思っていないことも伝えたし、誤解はしていない。
となれば、何か理由がある。
成政が理由もなしに動く男には見えない。

きーん……

遠くで、かすかに刀の音がした。
かえでは聞き逃さなかった。
何か、この山の、この霧の奥にいる。
それも、争っている。
かえでは駆け出した。

「っっ!!……おい、バカ走るな……――」

利家の声が遠い。
水にもぐったように声が聞こえなくなった。

「え??」

おかしい。
霧とはいえ音まで食うだろうか。
あわててかえでは下へ引き返した。

利家がいない。

完璧にはぐれた。
まさかこの短い間で??
そんなに霧は深くない。
ただ、10数メートル先が見えないくらいで……なのに、この短距離で、短時間ではぐれてしまった。

「嘘……利家くん??」

かえでが小さく呼ぶが返事がない。
あるのは木々と薄いもやだけ。
途端に恐ろしくなって、かえでは辺りを見回した。
誰もいない。

「やだ……」

パニックに落ちかかっていると、なにやら足音が聞こえる。
こちらへ近づいてくる。
利家だろうか。
それとも……かえでの中で後者のほうの想像が膨らむ。
何をされる??
伊賀の人たちは、私を見つけて何をするの??
こうしている間にも足音が大きくなる。
かえでは思わず身をすくめた。

「このようなところで、何をしているのですかっっ!!」

はっとする。
あの声。
かえでが今誰のものよりもききたいと思っていた声。
紺色の小袖に濃い茶の袴を身にまとった、成政がそこにいた。
手には抜き身の刀を持っていたがかえでを見るなり、刀を腰の鞘に納めた。

「成政さん!!あの――」

「早くお逃げなさい!!又左はあなたを止めなかったのですか?!」

かえでの言葉を聞かずに成政が怒鳴る。
いつもの穏やかな、やさしい成政の声とはまったく違う。
余裕のない表情。
必死にそれはかえでに逃げろと訴え、そして怒っていた。

「早く!!ここにいてはなりません!!」

「でも」

「なんと強情な……私のいうことを聞いていただけないのですか」

「何を必死になられておられる……佐々殿」

いきなりした第三者の声に成政が顔を険しくさせる。
成政が振り返ったその先に、大きな布を頭からかぶったひとがいた。
伊賀者だ。
かえでがはじめてあったときと同じ……あの死神のような姿がそこにあった。