かえでが目覚めたのは、夜更かししたせいもあってだいぶ日が昇ってからだった。
夜中に抜け出した事は誰にもばれなかったが、さすがにおきるのが遅い事だけは不思議がられた。

秀吉が付けてくれた女中のいよとはだいぶ打ち解けて、仲良くなれた。
今日も新しく着物を持ってきてくれた。
しかし今日のは明らかにいつもの着物と違った。
桃色の生地に、白いぼかし。
蘭丸が買ってくれたものだった。

「わあ!できたんだ!」

「ええ。あの……」

いよがくすくすと笑っているので、かえでは聞いてみた。

「あの、森殿が、仕立ててくれたそうよ」

「ええ?!蘭丸くんが??」

「器用な方と、名の高いお方だから。でも、おなごに着物を送ったなんて、聞いた事ないわ」

そういってくすくす笑う。
不思議に思ってかえでが更にきくと、いよは顔を少し赤らめて答えてくれた。

「衣を送るなんて、そうそうある事じゃないわ。きっと、少なからず森殿はかえで様のこと、お気になさっているのね」

「……えっと……もう一回聞いていい??」

だから、と楽しそうにいよは繰り返してくれた。

「ええ〜〜〜!!!?だって森蘭丸って言ったら織田信長の小姓で……そんなちょっとたいそれてない??」

「まぁ、別にいいじゃないの。ふふ、今日はこれを着て森殿に会いにったら?」

「もうっ!いよっ!からかわないで!」

とかなんとかいったが、あまりにも仕上がりがきれいだったので、かえでは今日この小袖をきることにした。

着替えて部屋を出ると、利家が庭にいて駆け寄ってきた。
まだほほにばんそうこうがついている。

「おい、お前これ……?」

「なに?」

利家の言葉が途中で消える。
ようやく思い出したように利家は遅れて言葉をつなげた。

「……別人だなぁー」

「あ、似合う?」

「ああ。いつものあのがさつなお前とは思えねぇよ」

は?
何?
今何か言った??
かえでの耳になにか、明らかに何かやな言葉が紛れ込んでいた。

「お前なんでこういうのきねぇんだよ。こっちのほうが少しはきれいに見えるぞ」

「……普段ダメだって言いたいわけ……?」

「んあ!?い、いや、そーいうわけじゃ……」

「そう、そうなの……わかったわ」

「あーっじゃなくて、これ、これとってくれよ」

利家がほほのばんそうこうをさす。
半分腹を立てていたかえでは思いっきりべりっとばんそうこうをはがしてやった。

「っだーーーーーーーーっっっっ!!何すんだよ!!」

「ばんそうこう、とってあげたの」

「お前、オレの面の皮まではがしてねぇか??」

「あ!ごっめーん」

「げぇ!マジかよ!?」

「冗談よ」

利家の眉間にしわがよる。
かえではそんな利家にぴしゃりと言い放つ。

「余計な事言うからこうなるのよ」

「……」

ちょっと赤くなる利家がかわいいと思う。
でもそのことをかえでは絶対に口には出すまいと思った。

「で、今日は何しに来たの?」

「んー、それとってもらおうと思ったんだ」

ばんそうこうひとつはがすためにわざわざここまで来たというらしい。
律儀なものだ。
でも利家にとって初めてだったろうし、自分だったらやはりそうするだろうなとかえでも思った。

「でももうとってもらったし……なんなら町にでも出かけるか?」

「うん!」

かえでが元気よく返事をすると、利家はうれしそうに笑った。