「……で?」

「え?ですから……」

かえではまた信長に会いにきていた。
いろいろ学びたい、身に着けたいとおもったので許しをもらおうとおもったのだ。
秀吉に相談したところ、一応信長に言っておいた方がいいという。
それできたのだが、「……で?」と聞き返されると返答に困る。

「わしが反対するとおもうたか」

「え?いいんですか?」

「いちいち聞くな」

そんな自由を奪うほど悪趣味ではないわ、と信長。
そうして笑う。

「……お前はわしを、歴史の中のわしを知っているな。どういう印象でいるのだ?正直に申せ」

正直"カッコイイ"とおもってた。
それは秀吉・家康といて、やれサルだ禿ネズミだ、一方でタヌキオヤジだいわれているのをきけば、信長がかっこいいとおもってしまう。
でも世間一般のイメージは?
中世を壊した覇王、魔王……これはいいイメージなんだろうか。

いずれにしろ正直に、といわれている。
嘘をついたら首を飛ばされるかもしれない。

「私はかっこいいなぁっておもってました。でも他の人はわかりません。
 ゲームとか本とかだと「覇王」とか「魔王」とか……悪いイメージもあったみたいです」

「げぇむ?いめえじ?……お前の言葉はよくわからん」

ふうと眉間にしわを寄せ溜息をつく信長。
慌ててかえでは言い直した。
すると今度は笑って信長が答える。

「当たり前だ。人間全てが是なわけがない。ということは……否な印象が強いのか」

笑ってはいる。
でも少しさびしそうにかえでには見えた。
あきらめなのかなんなのか。
信長の目が何かを訴えるような深さがあるように感じる。

「何だ、どうした」

聞き返されてかえでははっとし、我に返った。
何か訴えられていたようなきがするが、それを受け入れることはできなかった。
なんだったんだろう。

「いえ……でも極端なだけですよ。私以外にもかっこいいって思っている人いたし……」

「フン……おおかた叡山の焼き討ちの所為だろう」

「でもあれは仕方なかったんですよね?いずれは衝突することになる……」

「?!」

驚きの顔で見る。
信長の目がまっすぐにこちらを向いている。
かえでが今度は聞き返した。
何か、へんなことを言っただろうか。
すると信長はかえでのそばにより、小声で話しかけた。

「まさかな……お前がそういうとは思わなかった。誰に言った事もなかった。
 サルのヤツ、というわけでもなかろう。お前が知っているのは事実だけだとおもったが……」

先生の受け売りなんだけどね……とかえでは思った。
学校の先生がそういっていたのをふと思い出しただけだ。

「いずれにしろ、反対はせん。好きなものを学べ。向学心があるな。お前は」

「でも、何を学んだらいいんですか??」

「……?」

きょとん、としている。
信長は余りに想像していなかったのだろう。
怒ってるというわけでもなく、ただきょとんとかえでを見つめていた。

「まず文字が読めないと困るし……馬も乗れたほうがいいのかな」

「ふっははははは!!そのようなことか!」

とたんに噴出す。
少しむっとしてかえでは答えた。

「だって何をすればいいのか、何をするのかもわからないのに、何を学べばいいかなんて……」

「おなごなら長刀かのう?砲術もよいかも知れぬ。先に言った文字も馬もいるな」

「それから後は――」

「そんないっぺんにできるのか?」

信長がじろりと意地悪そうにかえでを見る。
明らかにおちょくっているものの、確かにそうだ。
あれもこれもは無理だ。
だって学校みたいなものよね、と納得してみるのだが……

「足りぬようなら足せばよい。足りぬと気づいてからでいいではないか」

あからさまに言われると少し腹が立つ。