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黒い髪は肩より長く、そして鋭い目つきをしている。
ふいに光秀を思い出したが、光秀ではない。
光秀のような冷たさは感じられない。
だがその目つきに浮き足立った気持ちが凍りついた。

「兄上」

蘭丸が言う。
彼が蘭丸の兄らしい。

「その女は何だ」

うわ、なんだかよくない感じだなぁ……かえではちょっとすくんだ。
主人はいきなり座っていらっしゃいませと礼をする。

「ああ、紹介しますね。こちらが例の、新しく安土に来た方です。かえでさんといいます」

街中だからだろうか、あえて蘭丸はそれ以上は言わない。
そしてかえでに向かってにこりと笑った。

「かえでさん、これがわたしの兄上、長可です」

「そうじゃない、蘭」

ずいっと長可が出てきて言う。

「この女子はお前の何なのだ」

「……え?」

蘭丸が聞き返す。
蘭丸が聞き返すのを、かえでははじめてみたかもしれない。
長可はそんな蘭丸の両肩をつかんだ。
何をするの?
まさか、殴ったり……かえでは息を呑んだ。

「俺は、俺はお前が心配なんだよ……近頃はあまり性格のよくない女が多いからな。
 俺の大事な大事な弟に何かあったら、それこそ父上に……いや、今は上様に仕えてもいるから上様にも申し訳がたたん!!」

「はぁ……」

困る蘭丸。
何か派手な展開があるかと覚悟していたかえでも、別の意味で派手な展開になって正直困った。
蘭丸の両肩をつかんだまままるで頼み込むかのように蘭丸に説教をたれる長可。
これは……これは……ただ弟を心配しすぎているだけではないか。

「あの〜、兄上?」

長い説教の間をぬって蘭丸が切り返す。

「かえでさんはそんな人じゃないですよ?」

「なぜわかる」

そういってかえでをうらんでいるかのような目で見る。
うをっ……内心安心しかけていたのだがやっぱり怖い。

「ただ、困ってたんです。いきなりここにきて、着物もなくて羽柴殿に借りている状態で……それでわたしが町を案内してただけですから」

「本当か?」

「はい」

「兄上にうそはつくな?」

「ついてません」

そして疑り深い。
ようやく蘭丸の肩を解いて、今度はかえでのほうにやってきた。
でも目つきは変わらない。
まだ怒ってるみたい……怖い。

「すまんな。もう怒ってない」

嘘だ……っっ!!
その目つきはまだ怒ってるよ!!
かえでは言い返したいが、相手が相手だし、何しろやはり刀を持っているし、逆らうことはできない。

その長可の腕がいきなり伸び、かえでの髪に触れた。
思わずびくっと体が震える。

「怒ってないといっとるだろ」

「兄上、目つきが怖いです」

「生まれつきだ」

かえでの髪に触れ、そうして主人に一言言い放つ。

「……ぼかしで白が入っているのをもってこい」

「は、はい」

主人が飛ぶように奥へ引く。
長可はそこで初めてかえでに笑いかけた。

「お前にはきっとその方が似合う。そういう髪だ」

それだけ言うと戸口のほうへ長可は足を向けた。

「蘭、後はお前がやれ」

主人が持ってきたのを腕にかけてみると、さっきの反物よりもよりしっくりくるものだった。
そしてきれいに染め上がっている。
ぼかしが美しくかかっていて、その色合いも楽しめるような感じだ。
かえでは早速それに決めた。

「こちらは桜染めでして……」

「ああ、ご主人、それは向こうでやりましょう」

にこりと蘭丸が笑う。
そして主人と勘定場へ向かった。



戻ってくると蘭丸は変わらずニコニコしていたが、主人の顔が明らかに引きつっていた。
戸口を出て蘭丸に聞くと蘭丸は上機嫌で答えた。

「ええ、交渉して半額にしてもらったんです」

それは機嫌が悪くなるはずだ。しかしそれで交渉して成功するのは、蘭丸の腕がいいということだろう。

それから蘭丸はかえでの世界での服の求め方を聞いてきた。

「うん。できたものをその場で売って、手渡すんだよ。だからちょっとびっくりしちゃった」

「そんなに世の中は変わってしまうんですね。……ふふ、500年もたつんですから仕方ないですけど。
 わたしもみてみたいな……500年後の世界。この安土はどうなっているんだろう」

楽しそうに語る蘭丸に、その安土の姿を言うことはできない。
彼の死がきっともう目前にあることも。

そろそろかえろうというとき、どこからかどたどたという音が聞こえてきた。
気の床を大またで歩くようなその音に、かんかんという軽い音が混じっている。
気になっていると蘭丸が答えてくれた。

「道場です。見に行きますか?」