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「え〜っと……もうこれでいいのかなぁ」

「そうですねぇ。手ぬぐい……は羽柴殿のお屋敷で手に入りますし……」

かえでは蘭丸に付き合ってもらい日用品の買出しに出ていた。
城下に出たものの何をすればいいのかわからない。
かえでのいた今までの世界とは、買い物の仕方もまるで違う。
右往左往しているだけになってしまった。

蘭丸には悪いことしたなぁと思った。
こんな状態なのに、付き合ってくれと頼んでしまった自分に罪悪感。
蘭丸はわざわざ信長に暇をもらってまでしてきてくれたのだ。

「そうそう、上様が体調が回復したこと、喜んでおいででした」

「え?……あ、ありがとう……」

あの信長に心配されていたというのが、まだ夢のようで実感がない。
なんだかたいそれたことになっているのはわかる。

「とにかく着物がほしいな。今のままじゃ、制服しかないし……」

「そういえば、それ羽柴殿のものだそうで……男装とは、何かあったのですか?」

別にない。
屋敷から出るときに大きくすっ転んだまでだ。
蘭丸は見ていなかったのだが、恥ずかしくてしょうがない。
なれない女物の着物は動きにくいから、仕方なく割りと自由の利く男物の着物を借りた。
そんなに大きくない秀吉の小袖も袴も、かえでにはちょうどぴったりだった。

蘭丸が笑っている。
ついむっとした表情が出てしまっていたのかもしれない。

「あ、ごめん」

「いいえ……でもお似合いですよ」

そういわれても恥ずかしいし気まずい。
蘭丸の笑顔が苦しく感じる。

「でもびっくりしたよ。着物って売ってないんだね。本屋さんもないし」

「え??かえでさんの世界ではうっているんですか??」

蘭丸が目を丸くして聞く。
思わずこちらもびっくりして問い直した。
「え?じゃあどうやって手に入れるの??」

「ふふ……興味ありますか?まだ時間もありますし、行ってみます??」

どうも着物は売っていないということ、商売の仕方がまったくかえでの知っているものとは違うことがわかった。
仕方が違うとなんだか腑に落ちない。
気になり始めたかえでは、蘭丸に案内してもらった。

着物がほしくて蘭丸に案内されたところは反物屋さんだった。
そんなに広くはない間口に、人が集まっている。

「ご主人はいらっしゃいますか?」

蘭丸が問うと奥から人懐っこい笑顔の男が出てきた。
好印象。
カリスマ何とかとかいうかっこいいお兄さんよりも、かえでは帰ってこういうおじさんに見てもらいたいと思った。

「おや、森様。みずからいらっしゃると、は……ははぁ、そういうことですか」

かえでを見て主人が言う。
何のことだかわからないのだが、蘭丸はわかっているらしく主人に笑って言った。

「ええ、兄上がうるさいので」

「いやいや、隅に置けませんな。ということは」

「ええ、女物の反物を見せていただけませんか?」

蘭丸が言うと主人は頭を下げた。

「お嬢さん、どんな感じのが好みかな?」

好みを聞かれても困る。
何しろ、何があるのかがまずわからない。
思わず蘭丸の顔を見てしまった。

「そうですね……"かえで"さんですから、赤いもの……いえ、桃色のものを」

蘭丸が答える。
ほっとしたのと驚いたので蘭丸を見つめる。

「あなたは鮮やかな赤よりも、華やかな桃色の方が似合いますよ」

「そうなんですか?」

似合う、といわれて少し赤くなる。
同じ年頃の男の子に服について言われたことがない。
こうはっきり言われると、なんだか口説かれているようで恥ずかしい。

「たぶん、ですけど。勘ですから」

ああ、勘なんだ。
何かやっぱりと思ってしまった。
ちょっとがっかり。

主人が戻ってきた。
主人のほうも似合いそうなのを見繕ってきたらしい。
二三抱えて持ってきている。

「わぁ……」

ただ何の模様もない、それこそ華やかな桃色だった。

「よくお似合いですよ」

蘭丸も言う。
まだ着物に仕立てあがっていないので、ただ腕にかけてみただけだが、くるくる回りたくなる。
そのくらいきれいな反物だ。

「ねぇ、ら――」

「蘭、何をしている」

かえでが蘭丸に話しかけようとしたそのとき、蘭丸の背後に一人の男がやってきた。