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まず、はいったところは想像したようなお城とは違った。
周りが石垣で、その中に建物があるような、薄暗い場所だった。
昔の家の土間のような感覚だ。
ひんやりした空気が伝わってくる。

戸が閉まる。
すると光秀はかえでに向き直り、こう言った。

「これでよろしいですね?では、私はこれにて……」

本当は信長のところまで連れて行ってほしかった。
しかし呼び止める暇もなく、光秀は天守の中へと姿をくらましてしまった。

何なのだろう。
あの光秀という男は。
かえでは本能寺の変を知っている。
だからこそ余計にかんぐってしまうのだろうか。
理解できないところがある。
だが、どうしても気になる男であるのは間違いない。

いつまでもその場につったっているわけには行かない。
かえでは中に足を踏み入れた。
突然、目に妙な塔が入ってきた。
金色に輝いている。
何かに惹かれるようにかえではひきつけられていった。

「あ……」

目を疑った。
天井がない。
まさかと思った。
最近では吹き抜けは当時の技術からしても、無理だというのが通説になっていた。
かえでも吹き抜けだったらどんなにいいだろうと思ったが、実際はそうは行かなかったんだろうなと信じ始めていた。
でも、今目の前にしている安土の城は高く吹き抜けている。
気が遠くなるほどに天井が高い。
途中廊下のようなものが空中を走っている。
その高い天井にはなんだかわからないが立派な絵が描かれている。
柱という柱は黒く塗られ、そこに輝く金色の装飾品。
ここが城の心臓部だとすぐにわかった。
そして大きな塔。
荘厳、というのだろうか。
鳥肌が立つのがわかる。

ふと塔が怖くなった。
何というわけでもなく怖い。
何か自分が変わってしまうような恐ろしさを感じがする。
このまま帰れなくなってしまうような、そんな妙なものを感じる。
慌ててかえではその塔を離れた。

例の土間のようなところはどうもこの階全面にあるらしい。
その先に階段があった。
しかしさすがに階段は板敷きになっている。
ということは靴を脱ぐべきなのだろう。
しかし城には誰かいるはずなのに、ぞうりの一つも出ていない。
仕方なく悩んだ末、靴を脱ぎ軽くはたいて抱えていくことにした。

「ふふ……かえでさん、ようこそ」

階段を上ったところで蘭丸がたっている。
階段の上でずっと待っていたらしい。
下まで迎えにきてくれてなかったあたり、やはり信長はかえでを試しているのだろうか。

「大正解ですよ。履物は脱いでください。こちらでお預かりします」

蘭丸がかえでからくつをとって言う。
勿論、くつなんて見たことない蘭丸は少しかえでのくつを眺めて、そしてすぐにおいてあった箱の中へとしまった。

しかし天守の上まで上って来いというのかと思っていたかえでは、いきなり一階にあがったとたんに蘭丸にあったので、ちょっと拍子抜けしてしまった。

「上までいかなくていいの??」

素直に聞いてしまった。
蘭丸はそのまま返す。

「ええ。よく考えてください。正直よそ者のあなたに天守の隅から隅まで見せるほど、上様は間抜けではありません」

正直に言われるときつい。

「それに……上様の居間はこの階にありますから」

なるほど。
居間で会おうというのだろう。

蘭丸がある部屋の前で軽く座る。
そして頭を下げた。
この部屋なのか。

「上様、蘭にございます。かえで殿がご到着なされました」

「うむ」

奥から声が返ってくる。
それを聞いて蘭丸は襖を開いた。

緊張していたのだが、信長自身の態度はいいとはいえない。
片ひざを立てこちらを見てにやりと笑っている。
なるべく驚きを顔に出さないように、かえでは一歩足を踏み出した。
蘭丸はおとなしく後ろで控えている。

こういうとき、どうすればいいのかわからない。
とりあえず正座して頭を下げた。

「宇秋かえで、か」

「はい」

名前は覚えてもらえている。

「国はどこだ」

「日本です」

「にほん……どこだそれは」

かえでは返答に困った。
てっきり通じると思っていたのに、信長には通じていないようだ……。

「かえでさん、日本のどこだと聞いているのです」

蘭丸が注を加えてくれた。
どこからきたのか、といえば安土城祉で転んだところからということだが……

「滋賀県……近江国です」

「近江をしがけんというのか?」

明治時代に廃藩置県が行われて、なんて説明を信長にしても通じるわけがない。

「私の住んでいた時代は日本は一つになってて……国じゃなくて県に分かれていたんです」

「まるで唐だな」

中国にもそういう言い方があるのだろうか。

「まあよい、お前はここまで一人できたのか?手助けをしてもらえたなら礼を言わねばならぬからな」

楽しそうに信長が言う。
しかしどこかに毒が残っている。

「えっと……光秀さんに助けてもらいました」

「はははっ……お前は正直だな」

笑いを抑えて、信長が続ける。

「光秀のことだ、どうせたいして大きな助けというわけではないのだろう。わしがお前を試しているのもあやつなら簡単にわかるはずだ」

わかって手取り足取りするやつではないと信長。
だからそっけなかったというのだろうか。

そういえば利家くんも……とかえでは思い出したが合えて口に出さなかった。
あの人とは絶対に仲良くなれない。
大体助けになるようなことは一切してもらってない。

「他にもおるのか?」

「いえ……光秀さんだけです」

「……」

蘭丸がクス、と笑う。
蘭丸はわかっているのだろうか。
その蘭丸に気づいたのか、信長はかえでではなく蘭丸に質問を向けた。

「蘭、お前はなぜこやつが要ると思う?」

要る?
まるで道具のような言い方。
かえではむっとはしたもののここで腹を立てても仕方がない。

「要るかどうかはわかりませんが、手放すわけには参りません」

「ほう……お前が女性(にょしょう)に執心するとはな。大人になったか」

からからと信長が笑う。
ふう、と苦笑を浮かべつつ蘭丸が返す。

「お戯れを」

なに、ちょっと今のやり取りって、さりげなく失礼じゃない?
私はここにいるのに……

「かえでさんはこの先を知る唯一無二の存在。敵方にわたられては、勝てる戦も勝てなくなってしまいます」

信長は黙っている。
せめて城下にいることだけでも許してもらえれば、かえでが自由に動くことが許される。